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カーネルハッカー Alan Cox 氏インタビュー
「Linux 開発よりもずっと大切なこと」

Alan Cox 以下は、 LWN が1999年1月に行ったインタビュー(英語) の日本語訳と、 その後、さらに追加の質問をさせていただき、 ChangeLog が LWN で 3月に公開したインタビュー (英語)の日本語訳です。


Alan Cox 氏の名は Linux ユーザなら、ほとんど方にお馴染みのはずです。 (※ Linux カーネルの ac パッチ(eg. 2.2.2ac7)というのは、Alan Cox 氏のイニシャルを表しています。)彼は、ネットワークや SMP などの細々(こ まごま)した部分も含め、Linux カーネルのかなりの部分を任されている人物 です。カーネル 2.0 シリーズの後半では全体のまとめ役を務め、現在の開発 カーネルへのパッチの主要なまとめ役の一人としてもご活躍中です。間違いな く、カーネル開発界でのキーパーソンの一人でいらっしゃいます。

Alan には、ご多忙の中、多くの質問にお答えいただき感謝しています。

LWN:

2.2.0 は出るのにかなり時間がかかりましたね。かかり過ぎた、かも? 2.3 は早めに出るとお考えですか?

AC:

そう願っている。2000年早々に 2.4 が出ると期待したい、が、ひとえに Linus 次第だ。2.4 が出る頃には、一般的に言って、もっとずっと素早い仕事を期待されるようになるだろう、とは思う。

LWN:

2.3 シリーズで起こり得る最も面白いことは何ですか?

AC:

実は、私にもよく分からない。進行中のパッチや 2.2 のリリースよりも後回しにされたパッチを見て多少予想することはできるが。明らかなのは 64bit ファイルのサポート、あと多分 32bit uid のサポートと大量プロセスのサポートだろう。デバイスに関しては、I2O(英語) と USB (英語)は 2.3 に入るだろう。PCI bus / PCMCIA / Cardbus / Hotswap 等のクリーンアップも必要とされているし、できると願っている。実際、カーネルの複雑さを増やすというよりむしろ減らす機会になるし、そのことは良い徴候だ。

ネットワーク関連では、普通のユーザが気が付くようなことはあまり起らないとは思う。DECnet の追加は、平均的なユーザにはあまり関係ないだろう。ATM の方が影響するかもしれないし、そろそろ入っても良い頃だ。

自分としてはすべてのパームトップのサポートを期待している。いくつかの要素があるのだが、そのすべてにおいて明確な統一化の必要性を示しつつあるんだ。

LWN:

カーネル開発プロセスでは、ますます組織的な役割を引き受けるようになっていらっしゃいますね。苦にはなりませんか? 以前のようにフルタイムでハックしたくなったりしませんか?

AC:

気付いたらこうなっていたんだ。基本的に 2.2 が出たため、調整作業の量は再び減ると思っている。とにかくそう願っているんだ、I2O のコードを終わらせたいし、今書いてる3c527 イーサネットドライバもデバッグしたいし、vMac (英語)の人達によって Macintosh 68K 上でパレットのロードとフロッピーが使えるようになったのも使ってみたいし。

LWN:

毎日送られてくるそのようなメールをすべて処理(し、そして返事を)しながら、さらに、そういったことも成し遂げるのは、一体どうやっていらっしゃるんですか?

AC:

実はとっても簡単なことなんだ。元々読むのが速く、 私が取り掛かっている大抵のことは、 返事を必要とするものなどほとんどないからな。 私が送るメールの多くは、 単に重複作業を回避するため開発者を互いに指し示すだけだ。 その他で多いのはバグとパッチの追跡くらいだ。

パッチのマージとかバグ追いとかは全部さっさと片付けるため、 メールに目を通すのは全然時間がかからない。

LWN:

昨年のカーネル開発は、 時折「Linus 燃え尽き」現象によって中断されましたね。 現在の開発モデルの持続性についてどうお考えですか? 変更したい点などありますか?

AC:

もし私がカーネルのオーガナイザー(まとめ役)だったら、 かなりのことを違う方法でやるだろう。 今 Linus はすべてのパッチを当ててツリーをビルドしているが、 私だったら直接カーネルツリーにパッチをマージする人達がいた方が良い。 そして Linus は、ただ座って見ながら、すべてをマージする作業などせずに、 拒否権だけを行使する、というように。

2.1.x からモデルが変り、 一種の折衷案に進化したが、 かなりうまく働いているようだ。 Linusはやはりすべてのパッチを当てているが、 今は、小綺麗に組織化されたグループの中に、 パッチの数々を照合して Linus に渡す人達がいるんだ。 Larry McVoy の新しいバージョン管理ツール(※訳注: BitKeeper) が残りの問題を解決するかも知れない。

もし私がカーネルのオーガナイザーだったら、 かなりのことを違う方法でやるだろう。 (Alan Cox)
If I was the kernel organiser, there are quite a few things I'd do differently. (Alan Cox)
2.0.x でも責任を任されるとは全然思ってなかったんだ。 (Alan Cox)
I never really anticipated it with 2.0.x. (Alan Cox)

LWN:

2.0 でそうだったように、2.2 シリーズでも責任を引き受けるおつもりですか? それとも他の人がテンションを上げておく必要があるのでしょうか?

AC:

2.0.x でも責任を任されるとは全然思ってなかったんだ。ただ私がすべてのパッチを照合していたという成り行きだけでそうなったんだ。私が思うに、2.2 が長期管理状態になる頃には、2.0.x は基本的に死んでいると思うね。

LWN:

Linux界で、最も必要とされているのに実際には今ボランティアが足りていないプロジェクトがあるとすれば、どれだと思いますか?

AC:

それは、いつ聞かれても難しい質問だ。 問題の一面として、Fred Brooks が観察(※訳注:「人月の神話」)したように、遅れているソフトウェアプロジェクトにマンパワーを足すと余計に遅れるということがあるからな。これはフリーソフトウェアにも当てはまることなんだ。

多くの作業がなされるべきなのが明らかになっている領域に カーネル機能用のもっと良い GUI ツールがある。 いい感じのグラフィカル ISA PnP マネージャとか。あと新しい 2.2 の帯域幅制御管理機能のエンドユーザフレンドリーなツールも含まれる。

しかし実際にはフリーソフトウェアの世界は管理された企業構造のようには機能しない。ボランティアとして何かやろうというのなら、何らかの楽しみを見つけ出す必要がある。もしやるなら Freshmeat や FSF の人達からの呼掛け(eg 今ドキュメンテーションの人数を求めている)を見て、心をくすぐるものが無いかチェックして欲しい。

LWN:

1998年の Linux 界での最も意義深い出来事は何だったと思われますか? 1999年の開発で最も面白くなりそうなことは?

AC:

明らかに最も顕著だったものは、Linux がビジネスマン達に突然発見された ことだ。これは Mozilla のこととかなり関係がある。

1999年に何が起って驚かされるのかは分からない。だが Microsoft が現在 試みている企業自殺は、1999年の Linux 界にいくらか影響を与えるはずだ。 それが最も意義深いことになるのかどうかは分からない。 もう一つは、大手 PC ベンダーが Linux が入っているか、 OS 無しのマシンを作ることだろう。 最近面白くなってきた Windows 返金武勇伝は、 これを間違いなく促進するだろう。 実際 (Linux がプレインストールされているマシンよりもむしろ) OS 無しのマシンを簡単に手にいれることができるようになることが重要だ。

もし OS の選択のために戦ってる大部分の人達が「Linuxだから、これで OK。」 と言って、そのままにしておいたら、FreeBSD のコミュニティのような人達にとっ て良くないからだ。

2000年 / 2001年が本当に大きな転機になるだろうというのが私の読みだ。 それが、 大手 Unix ベンダーが大っぴらに Linux へ切り替え始める転換期だと思う。 サポートとハードウェアが主な収入源のベンダーにとっては簡単な計算だ。

LWN:

そんな中、BSD 族の将来についてはどう思われますか? Linux が彼らの破滅の原因になるのでしょうか? BSD システムと Linux ユーザとの関係はどうなるのでしょう?

AC:

Linux が FreeBSD を殺すとは思わない。Open か NetBSD のどちらかが死ぬのは目に見えているがね。ある時点で NetBSD がやばいと思ったのだが、まだ断じて生き残っている。8)

より長期的には、Linux は、BSD 族を助けることになると思う。Linux カーネル API (もうかなりうまくできている)のサポートによって、Linux が作っているのと同じアプリケーションベースを利用することができる。 SCOと、BSDI、そしてどうも Solaris が Linux カーネル API をサポートするようだ。誰のお気に入りの OS 上でも、多くの Linux 用のアプリケーションが気持良く走るようになるはずだ。

LWN:

Linux に対する企業の興味が増していることについてどうお感じですか?一部の人々が恐れているように Linux が「魂を失う」危機に瀕していると思いますか?

AC:

Linux はいつでもユーザベースを反映してきたんだ、だから部分的に企業的になるのは間違いないと思う。そのことは実質的には大問題だとは思わない。どんな大企業にも Linux を「所有」したり、自由に配布・変更する権利を奪ったりすることなんてできないんだから。

個人的には、完璧に企業の IT マネージャ狙いの Linux ディストリビューションを誰かがリリースしても全然気にならない。技術コミュニティは、そういうディストリビューションに対して「退屈だ、遅れてる、なかなか変化しない」などと言うに決まっている。一方、私は企業の IT マネージャ達には会ったことがあるのだが、彼らは「退屈だ、そして、なかなか変化しない」という言葉にこそ興奮するんだ。

Linux は既にこのような広範囲をカバーしている。Caldera (※かつてはそうでしたが、今はそうでもない部分もあります。)のような企業スタイルや、「利用/インストールが簡単」の Red Hat から、「純粋・自由」バージョンの Debian まで。それによって、今のようにより豊かになっているのだ。なぜ将来わざわざ乏しくなる必要があるだろうか?

2000年 / 2001年が本当に大きな転機になるだろうというのが私の読みだ。 (Alan Cox)
My guess is 2000/2001 will be when the really big stuff happens. (Alan Cox)
Linux が FreeBSD を殺すとは思わない。 (Alan Cox)
I don't think Linux will kill FreeBSD. (Alan Cox)
LWN:

Telsa さん(※訳注:AC の奥様)の日記(英語)、楽しく読ませていただいています。筋金入りのハッカーが、幸せな結婚生活を続けられる秘訣は? かわいいペンギン達についての争いは結局どうなりました?

AC:

ハッカーであることと、マスコミの言う「社会に不適合なコンピュー タオタク」像とは違うものだ。 かなり重なっている部分があるのは確かに事実だがね。 しかし、多くの優れたハッカー達も人類の一員なんだ。8) 実世界で何が起っているかもちゃんと理解しているんだ。

私にとっては、コンピュータの前に座ってメールを読むこと よりも、 Telsa の方がずっと大切なんだ。 このことがいちばんの秘訣じゃないかな。

(※訳注:ac にとって「メールを読む」というのは Linux カーネルのメンテナンスも含みます。)

ペンギン達については、今はプリンタ用紙の上に抱き合った形で置かれている。 今は、Linuxmall のや他のペンギンと比較検討するために Wai Yip ペンギン もあるんだ。かわいいペンギン達についてのレビューを書かないといけないな。

ac
※ ChangeLog では、その後(1999年3月) Alan Cox 氏に追加の質問をさせていただきました。お忙しい中、丁寧に御回答いただきありがとうございました。

ChangeLog:

LWN のインタビューは今年の 1月の早々に行われたもの ですね。今、たった2ヶ月後ですが(LinuxWorld Expo で数々のプレスリリー スがなされたように)ビジネス界の Linux へのシフトが加速し、状況が変っ てきたようです。この状況について、どう思われるか教えていただけませんか?

具体的には、インタビューの中で、2000年/2001年が「大手 Unix ベンダーが大っぴらに Linux へ切り替え始めるという転換期だと思う。」とおっしゃっていました。今はこれに関してもっと早い時期になると思われますか?

AC:

いくつかのベンダが、いかに派手に Linux を支持したかについては興味深いと思っている。しかし、誰の転換期のタイミングを変えたとも思わない。彼らが「Linux はサポートしません」、「Linux はハッカーの OS だ」というようなことを言っていたのを顧客ベースが忘れ、本物の OS として取り入れるようになるにはある程度の時間が必要だからだ。

ChangeLog:

「Linux へ切り替え」とは、例えば IBM なら、AIX の開発を止めて Linux のみに集中する、ということなんでしょうか?

AC:

私は IBM が完全に Linux へ切り替えるなんて風には考えられないな。 Linux は、非常に優秀な汎用的な OS だ。 しかし、現在、各ベンダが彼らのビジネスの一部として特化していて、 Linux には実装されていない特殊な事項というのは多数あるんだ。

つまりこれは全体として彼らがどの製品を提供するかというよりも「ウェブサーバが欲しい」と言った時にどの製品を最初に差し出すか、という問題なんだ。

私にとっては、コンピュータの前に座ってメールを読むことよりも、 Telsa の方がずっと大切なんだ。 (Alan Cox)
Telsa is more important to me than sitting in front of a computer reading email. (Alan Cox)
高品質のバイナリのみのソフトウェアについては、生き残ると私は確信している。 (Alan Cox)
Good quality binary only software I'm sure will survive. (Alan Cox)
ChangeLog:

次に、あなたの日記(英語)の次の部分について質問させて下さい。


3月1日

明日 LinuxWorld が始まり、誰もがすべてのバイナリベンダのソフトウェアが Linux 用にリリースされるのを祝いに行く。そしておそらくオープンソースプ ロジェクトが始まって、それらのバイナリソフトウェアはノロノロとして時代 遅れのものに見えるようになるだろう。Linux と特に Gnome や KDE のような 現在のデスクトッププロジェクトがしようとしていることの一つは、ジャンク の間から「良い」商用ソフトウェアを淘汰することだ。


ChangeLog:

この部分は、こういうことだと理解してよろしいでしょうか?

オープンソースプロジェクトによってジャンクのバイナリソフトウェアは消滅してしまうが、もしソフトウェアが「良い」ものなら生き残る。

言い換えると、 (サポートでなく)ソフトウェアそのものを売るビジネスも 将来的に完全に無くなってしまうわけではない。 高度にカスタマイズされていたり機械翻訳等の先端技術を応用したものでなく、 普通の人々に広く使われるようなソフトウェアでも「良い」ものであれば、 これからも売れる。

ということでしょうか? もし間違っているなら、この日記の部分が意図しているところをご説明願えますか?

AC:

私は品質の良くないバイナリソフトウェアは消滅すると思う。 簡単に同じレベルのものがフリーで書くことができるようなもので 商売している人達は、 実際に他の誰かに書かれてしまうということを思い知ることになるだろう。

高品質のバイナリのみのソフトウェアについては、生き残ると私は確信してい る。バイナリだということがマイナス要素になってきている、とは思うが、こ れが唯一問題となることではない。おそらく、2001年の重役会議ではこのよう な会話を聞くことになるだろう。

「データベースには、Oracle を使ったらどうだろう。」
「でもあれはバイナリのみだ。リスクが高まる。」
「そうだな。でも私達のデータサイズに合うのは、それしかないだろう。」

ChangeLog:

「良い」というのはどういうことでしょうか? 例えば、「良い」ソフトウェアとは、(機能的に)どうあるべきですか? また、(もしあるのであれば)どの既存のバイナリ製品を「良い」と思われますか?

AC:

「良い」というのは「やって欲しいことをうまくやる。」( "Good" means 'does the job people want it to do, and does it well' ) ということだ。あまり正確な定義ではないがね。

良いバイナリ製品の例としては Quake (英語) を挙げよう。Linux コミュニティは quake が大好きで、多くの部数を買った。quake がリリースされた当時は、quake のクローンを作ろうとするのは非常に大きな仕事になってしまっていただろう。

ChangeLog:

ありがとうございました。

ac
Alan Cox 氏のページ(日記)は、 「What is Alan hacking right now」(or What is Alan doing...) と名付けられており、カーネル開発の今を知る貴重な情報源の一つとなっています。

氏が今 hacking に取り掛かっている内容 (例えば、3c527 のドライバがあーだこーだということなど。) に cox 夫妻のほのぼのとした日常 (例えば、二人で買い物に行って、 alan にとっては(大きさ・形・値段のすべてが)完全に同一としか思えない 二つの鍋のどちらを買うのかを Telsa が散々悩んだ挙げ句の果てに 結局決め兼ねて、明日もう一度買い物することにしたことなど ;-)が 時折交錯する一種独特のオーラに包まれています。

(つい先日、 Wall Street Journal(英語)が氏のページについて言及した時には、世の中どこか狂ってる、、、と本人は感じたそうです。)

さらに詳しく(話の裏側を)知りたい方は、 氏のページから「The other side of the story」というリンクを辿ると Telsa の日記を読むこともできます。 (さらにリンクを辿ると、ハッキング、クッキング、(ペンギンを抱きながら) スリーピング中の サングラスを外した氏の素顔も見られます。 )

ac
linux.org.uk
Alan Cox 氏のページ ( 主に開発関連日誌 )

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