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Ken Thompson 事件
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概要最近急速に Linux への注目が高まり、同時に、Linux に対する否定的なコメントもいくつか見られるようになりました。しかし実際にはその多くは意味のあるものではありませんでした。そしてその様な中、Unix の共同発明者の一人である Ken Thompson 氏 (ken) が「Linux はかなり信頼性に欠ける」と発言したインタビュー(英語)が公開されました。中立な世界的権威からの Linux に対する酷評は、多くの人に衝撃を与え、かなりの注目を集めました。(日経BP社の BizTech 過去7日間のデータ通算結果1位を記録 (5/12)。) しかしその後すぐ、どうやら ken がそれほど Linux と OSS(オープンソースソフトウェア)に対して否定的に感じていたわけではないと言うことが明らかになりました。(ken のインタビューは、Computer 誌の編集の段階でニュアンスが変ってしまったようです。) さらに ChangeLog では、ken との対話を行った Eric Raymond 氏 (esr) とのインタビューの中で重要な追加コメントをいただきました。
※Ken Thompson 氏 (ken) は、70年代にベル研(英語)で Dennis M. Ritchie 氏 (dmr, K&R の R.) と共に Unix と C を開発された方で、Unix の生みの親と認められています。ACM の Turing 賞(英語)を始め、数々の栄誉ある賞を受賞されています。 |
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Ken、Linux を酷評? (1999/05/04)※事の始まり。IEEE Computer 誌が公開したインタビュー(英語)からの抜粋です。 Computer 誌: そういう意味では、Linux はこの伝統を引き継いでいるということになりますね。Linux の現象についてどうお考えですか? Thompson 氏: 私は Linux のことを、Microsoft でないものの一つ、つまり、Microsoft に対する反動で、それ以上でもそれ以下でもないと思っている。 長期的に見ると、それほど成功するとは思えない。 ソースコードを見たが、優れている部分と、そうでない部分がある。不特定多数の人々から寄与されたソースコードなので、質的なバラツキが大きい。 私自身と、何人かの私の友人の経験に関して言うと、Linux はかなり信頼性に欠ける。Microsoft は本当に信頼できないが、Linux はもっとひどい。PC 以外の環境では、持ちこたえないだろう。 Linux を一台のマシンとして使うと言うなら、それはそれで良いだろう。しかし、Linux をファイアウォール、ゲートウェイ、組み込みシステム等で使おうということなら、まだまだ早い。
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Ted の提案 (1999/05/04)※Theodore Y. Ts'o 氏 (ted) は、Linux カーネル開発者の一人です。5月下旬の Linux Expo で発表されたところによると、6月からは VA Linux Systems の支援により、フルタイムで Linux のファイルシステムの開発等に取り組むことになっています。以下は、Linux Kernel ML への投稿(英語)です。 フレームを投げてる人達とは反対に、僕達はエネルギーを Linux の改善が必要な部分に注ごうよ。(実際確かにそういう部分はあるのだから!)彼らは、僕達が聞いてもいないことを言っているだけなんだから。 そんなの時間の無駄。 Linux コミュニティの損になるだけ。今も彼らは間違っているが、より間違っているようにしてやろうぜ。:-) |
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Linus の感想 (1999/05/05)※もちろん、Linus Torvalds 氏のことです :-) ken が Linux について、あまり良くないことを書いているんだとしたら、悲しいけど、でもそういう風にだとしても意見を言ってくれるということに 関して歓迎するのは確かだね。 僕はドライなやつなんだ。(日本語)他の人に何と思われようと、最終的には、あまり気にしないんだ。僕が Linux を始めたのは、僕がそうしたかったからで、フィードバックは非常に貴重だと思っているけど、それでもやはり最も重要なのは、自分がやってて楽しいということ、そして、自分が良いことをやってる、ということを感じることなんだ。 だから、またいつか ken にどういう意味か聞くことはあるかもしれないけど、それまでは、彼を勘違いこの上ない人だと思っておくことにするよ ;) |
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Ken、ESR に真相を語る (1999/05/07)※ Eric Raymond 氏と Ken Thompson 氏が、最近あった Ken の Linux についてのネガティブなコメント(IEEE Computer 誌に掲載)について話し合いをしました。以下は、この会話の Eric による要約(原文(英語))です。ご想像の通り、ken は、インタビュー記事の印象ほど、アンチ Linux というわけではないようです。しかし、まだ本当に Linux の能力を確信しているというわけでもないようです。(LWN) そこで、僕は彼に説明を求める文書を送った。僕達は意見を交換し、ken は親切にも、その中で彼が書いた部分を引用することを僕に許可して下さった。 その中で良い知らせは、多分、 ken は Linux そのものを単なる Microsoft への反動だと見限ったつもりはなかったということだ。ken は、最近の「メディアでの Linux の取り上げられ方」について、それが Microsoft 以外の何かを取り上げようとしているだけの現象だと思っている、ということを言おうとしていたんだ。 また、ken は、「私は、悪夢のようなハードウェア関連の問題に直面した際に、コードが入手可能で、それを見ることができることに関して非常にありがたく思っている」「オープンソース運動(特に Linux)は、賞賛に値すると思っている。」とも言った。 ken はさらに、「私は Microsoft のビジネス慣行には同意できない。」とも付け足した。もともとの ken の言葉は、もっと強気でもっと面白かったのだが、ベル研の弁護士が心臓麻痺を起すと良くないので、その言葉はオフレコにするよう彼に頼まれた :-) 良くない知らせは、 ken が Linux のことをまだ 安定していないと思っていることだ。僕は VA Linux Labs に頼んで ken にマシンを送ってもらいます、と言った。彼に、正しく設定された最新の Linux がどんなものか 知って欲しかったからだ。しかし彼は、この申し出は受けられないと言った。 彼は、また、「競争力的にも Linux が Microsoft の鼻を凹(へこ)ますことができる、というのは世間知らずな考え方だと強く確信している。資本力の欠乏や、アマチュアによる労働力、という点で Microsoft に大きく引き離されているからだ。(私は Unix についても同様の考えを持っている。)」とも言った。 僕は、事例、成長グラフ、統計、など Linux コミュニティがやれと言いそうなものはすべて引用して ken に示した。ken は直接それらに応答することはなかったが、僕は少なくとも彼に考える材料を示せたと思っている。 ken は、最後にこう言った。「私は、Linux コミュニティが、Unix コミュニティよりもかなりナイスだと言わなければならない。Unix について否定的なことを言おうものなら、殺しの脅迫が絶対に来る! Linux の場合、蝶の巣をかき回すようなものだ。」 (ふーん(そうかなぁ?)。誰か蝶の Tシャツでも作る?) 最初から最後まで ken は僕に対し敵対心を表したり辛辣になったりはしなかった。(インタビューの公開後、一部の人は ken に対してそうなったが。) ken は、まるで自分の子供に対して大きな望みをかける父親のような感じだった。ただし、その子供があまりに威勢が良く何度も無茶するため、今回はちょっと厳しくするぞ、といったような。 ※ Ken は Unix の父であり、Linux は Unix の子供に相当します。ken は間違っている、と証明するのは Linux コミュニティ次第だ --- そうすることによって、彼が正しかったことも同時に証明されることになるのだが。 ※ Linux をさらに安定したものへと高めることによって、 Linux が不安定だという ken の主張が間違っていることは証明されるが、 Linux が以前のものよりさらに安定したものになったと言うことは、 ken が言うように改善の余地があったということなので、結局彼が正しかったことも証明されることになる、ということのようです。
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BWK、Linux を絶賛! (1999/05/10)※ Linux Kernel ML への投稿(英語)から。
※Brian Kernighan 氏は、K&R の K であり、awk の K である方です。ken が Brian の意見を聞いていないと言及しているのは、ken がインタビューの中で彼の友人も Linux が信頼性に欠ると言っていると述べているためです。IEEE Software 誌: Linux とオープンソースについて、どう思われますか?オープンソースは、その支持者らが主張する通りのパワフルな開発パラダイムでしょうか? Kernighan 氏: 私の Linux に関する経験は大規模なものではありませんが、それに関して言うと、非常にポジティブです。 何年か前に、大きなクラスのためにウェブサーバを Linux で走らせていましたが、しゃっくり(一時的な中断や、ちょっとした問題点)もせずに 2ヶ月間走っていました。 そのマシンをマサチューセッツからニュージャージーへと引っ越さなければ、 おそらく私が死ぬまで走り続けていたでしょう、、、
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ESR、ChangeLog に詳細を語る (1999/05/28)※Eric Raymond 氏京都講演の際に実施したインタビューからの抜粋です。なお、インタビューの全文はこちら(日本語)をご覧下さい。インタビューの時間を確保して下さった Eric Raymond 京都講演(日本語) 実行委員会の方々(日本語)に感謝致します。ChangeLog: Ken Thompson 氏の Linux に関するコメントについてですが、「Linux はNT よりひどい」とおっしゃっていました。しかも信頼性についてです! あなたは ken のこのコメントについての真相を明かす文書を LWN にも送って下さいましたが、この信頼性についての部分は特に含まれていなかったので、説明していただけますか? ESR: 彼のコメントについて理解しておくべき点は、 Linux について語った彼の経験というのが、実は PC でないハードウェア上の Linux の話であるということなんだ。そして、それについて信頼性が無いと言ったんだ。 元のインタビューの記事をもう一度読み直したら、彼が正にそう言っているのが分かると思う。 ※ どうやら Computer 誌の編集の段階でニュアンスが変ってしまった、ということのようです。僕は、彼が使用したのは、Alpha か PowerPC 上の、マイナーで、やや不安定なバージョンだったんじゃないかと推測している。そして実際、それらのバージョンは、PC 上の Linux ほど信頼性が高くないのは事実なんだ。まだそれほど多くは使われてなくて、バグが削ぎ落されるだけの十分な時間がまだ経っていないからね。
※ Linux は、開発者も一般ユーザも PC (アーカテクチャ) を利用する人が最も多いため、PC 上のものが最も安定したコードとなっています。それに、(逆説的に)面白いのは、彼が PC でないハードウェア上の Linux に話を限定しているということは、彼が実際に PC ハードウェア上で走っている Linux を見たことがあり、実際に信頼性があると知っていたからだ、ということなんだ。
※ そうでなければ、わざわざ「PC 上のでなければ」と明記してアーカテクチャを限定(除外)したのが不自然だから、という理屈です。(なお、多少マシだが酷いに変りはないと Linux と同時に酷評されていた NT に関しては、特にアーカテクチャは限定されていませんでした。)でも、(ken とのメールでのやりとりで)それ以上の詳細は教えてもらえなかった。 どんなマシンを使っていて信頼性が得られなかったのかを尋ねたが、ken は教えてくれなかった。だから、僕も公開文書にその点については含めることができなかったんだ。 でも、面白いよね。彼は PC 以外のかなりマイナーな Linux ポートを使っていたんだと思う。 ken は、オープンソースについては良い考えだと言ってくれたから、それについては、ホッとしたよ。(笑。胸をなで下ろすジェスチャーをする。) ※ ESR は、OSI (Open Source Initiative)(英語) の代表として、オープンソースソフトウェア界のスポークスマンとして活躍していらっしゃいます。 だいたい、ken が「Linux なんて良くない」って言うなんて、栄西が戻ってきて「禅なんて良くない、厄介だ!」って言うようなものじゃないか!ワッハッハッハッハッ!!(esr のみ爆笑。)
※ これは esr お得意の禅についての冗談だったのですが、 ChangeLog を含めインタビューに同席された方々はすぐには理解できませんでした :-) |